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札幌いちご会 事務局

講演会 自分の障がいを知る~どうすれば人生が過ごしやすくなるか~



<いちご通信214号(2022年2月号)より抜粋>


2021年7月17日、NPO法人札幌いちご会主催のZOOM講演会「自分の障がいを知る」を開催しました。

講師は、札幌にて障がいのある方への診療をおこなわれているリハビリテーション科医師、土岐めぐみ氏にお願いしました。



いろんな車いす


なぜ土岐先生に講演をお願いしたのか 小山内美智子

私自身が土岐先生の診察を受けた際、「この先生は障がい者の意見を尊重してくださる」

と思ったからです。

医師の中には、脳性まひなどの障がいについて詳しくない人も多いです。

しかし障がいのある患者を診察する場合は、医師が患者自身に障がいについて詳しく聞き、把握した上で検査や治療を考えなければいけません

そうしなければ、間違った検査や治療がおこなわれ、障がいが悪化することもあるからです。

そのため障がい者は、自分の障がいについてしっかり理解をしておく必要があります。

今回はそのことを皆さんに知っていただきたく、この講演会を企画しました。

 


Q.脳性まひ専門医となったきっかけを教えて下さい。

A.医師になったのは、「女性やお子さんのためになる仕事がしたい」という思いがあったからです。

専門はリハビリテーションですが、整形外科や療育センターなどに勤め、

脳性まひの患者さんの診察にあたるようになりました。

10年ほど前からはボツリヌス療法(ボトックス注射)という、痙縮(けいしゅく/筋肉が緊張しすぎて、手足が動きにくかったり、勝手に動いたりしてしまう状態)を和らげる治療をおこなってきました。

痙縮の状態が、その人の人生・生命に深く影響すると思っていたので、ボツリヌス療法ができるようになったことは大きいと感じています。

しかし私のように脳性まひを専門に治療する医師は、全国的にとても少ないです。

 


Q.脳性まひ者の寿命は何歳ですか?脳性まひは遺伝しますか?

A.呼吸・運動・認知などの身体機能が重症でなければ、一般の方と死亡率は変わりません。実際に障がいのある方の入所施設では、入所者さんの高齢化が進んでいます。

しかし年々、呼吸器をつけるなど医療的ケアを受ける方が増えている現状もあります。

遺伝は、ほぼしません。

脳性まひは①周産期障害(脳へ十分な酸素がいかなかった等、生まれた時に何らかのトラブルがあり障がいをもってしまう)

②胎生期障害(母親のお腹にいる時点で何らかの問題を抱えていた)の2種類に分けられます。

染色体異常といった遺伝に問題を抱えた方が「脳性まひ」と診断される場合も極まれにありますが、基本的に遺伝は関係ありません。

 


Q.脳性まひのある女性が、出産を機に障がいが重くなることはありますか?

A.まず、脳性まひの女性は、肥満・胃食道逆流・尿路感染症・嚥下障害・骨粗しょう症のリスクが高く、また皮膚に傷ができやすく呼吸障害や精神疾患の発症率も高いとされています。これらの状態と妊娠が重なることで、色んなリスクが高まると言われています。

妊娠による体重増加やホルモン変化による催眠作用で、歩行が苦手な方がより転びやすくケガをしやすくなる可能性があります。

また、妊娠により血栓ができやすくなるため、出産前後に投薬治療の必要があるという研究結果も報告されています。

他にも高血圧症や早産の可能性は高いと言われますが、注意深く診てもらえる産婦人科なら、特に問題はないと思われます。

 


Q. 働くことに不安を感じます。どうすればよいでしょうか?

A.

(小山内)障がい者が働くことは、難しいチャレンジです。

体に無理がかかり障がいが重くなることもあります。

そのため私は現在、「職場介助者を国に認めてもらおう」という運動をおこなっています。今の制度上、障がい者が仕事をする時間については国からの介護給付費が支給されない

(ヘルパーに払う賃金は障がい者自身の自己負担となる)からです。

海外では、障がい者は6時間労働という決まりがあったり職場介助者を認めている国もあります。

日本もそのような、障がい者でも働ける体制をつくらなければなりません

(土岐)私が診ている脳性まひの患者さんにも、仕事でつらい思いをされている方がいます。その一番の原因は、体力かなと思います。

若いうちは大丈夫でも、30~40代になると厳しくなる方が多いです。

障がい者に限らず、体力に自信のない方の「働く」を支援する体制があればよいな、と私も思います。

 


Q.在宅の場合、リハビリの頻度やメニューの目安はありますか?

A.よく聞かれますが、特に決まっていません。毎日やることが大事です。

でも毎日理学療法士さんにやってもらうのは難しいので、自分やヘルパーさんがやりやすい、自分の体重や重力をうまく利用したストレッチ方法をリハビリの先生に教えてもらい、日常生活に取り入れてください。

 


Q.障がい者手帳を取得することに迷いがあります。どうすればよいでしょうか?

A.

(土岐)ご本人が取りたくなければ、取らなくていいと思います。

サービスを受けたいなら、取得されたらいいかなと思います。

手帳取得の手続きに必要な「医師意見書」の交付料は高いですが、取得したら様々な福祉サービスを受けられます。必要なくなれば返上してもよいかと思います。

(小山内)障がいがあっても「手帳を取りたくない」という人は、よくいます。

それは精神的な問題や世間的なイメージの問題もあり、手帳を取ってしまうと結婚や就職が難しくなる場合もあります。それはとても残念なことです。

そういう事情も医師の方には理解していただき、その上で福祉サービスを受けるメリットを伝えてほしいです。

 


Q.介護サービスの時間数(支給量)が少なくて困っています。どうしたら増やすことができるでしょうか?

A.

(土岐)増やす方法について詳しくはわかりませんが、時間数の決定機関である役所がなにを重要視するかはわかります。役所の人も、根拠のないことに決定することはできません。そのため、時間数の変更に関する法律や条例に書かれた文言と今の自分の障がいが、いかに合致しているかを役所の人に伝えることが大事かと思います。

また、申請に必要な医師意見書には「障がいによって日常生活で必要な動作にどう支障が出ているか」を記載しますが、一般的な整形外科・脳外科・内科の医師で、障がい者の動作について詳しい方はあまりいません。

リハビリ科の医師や理学療法士・作業療法士に、動作についてどう書けばいいかを教えてもらうといいかもしれません。

意見書の文章も、納得いくものになるまで医師と相談するといいですね。

(小山内)これは全国的に悩んでいる問題です。

24時間ヘルパーがいないと生きていけない人もいます。

医師の方が障がい者の意見をよく聞くことが大切です。

そうした声をふまえて医学的な視点を含め、意見書を作成していただきたいです。

 


Q.医療機関でも差別を受けます。どうやって希望を伝えたらいいでしょうか?

A.

(土岐)大きな問題だと思います。勇気を出して、病院と交渉したらいいかなと思います。今、病院には必ず「投書箱」があります。

そこに投書をすると、病院の関係各所に回覧されます。

「こんな嫌なことがあった」と、具体的に書いて投書されたほうがいいと思います。

その積み重ねが医療者の理解を進める一歩になります。

障害者差別解消法に医療者向けのガイドラインがあるように、すべての医療・福祉の従事者に障がい者への理解があるかというと、残念ながらそうではありません。

また、障がい者1人1人のケア方法は、その人自身や関係者に詳しく聞かないとわかりません。

たとえば入院した際、担当の看護師にケア方法を口頭で伝えるだけでは、他の看護師に伝わりません。紙に書いて置いておくことが必要です。

患者さんと医療従事者がお互いに嫌な思いをしないために、あきらめずに伝えていただきたいです

(小山内)なかなか難しい問題です。医師や看護師によっては、成人した障がい者に対して子ども扱いをしたり、治療方法について説明する際に本人でなくヘルパーや親に話したりする人がいます。

そうならないためにどうしたらいいのか、医師の方にも課題として考えてほしいです

また、障がい者自身が思いを語っていかないといけません

 


Q.医療教育(医師や看護師など、医療従事者を育成するための教育)において、障がい者について教わりますか?後輩へアドバイスはありますか?

A.

(土岐)医療教育で障がい者については、ほぼ教わりません。

リハビリテーション医学では教えるべきことですが、他の学部ではなかなか教える機会がありません。

医師として一人前になるためには、まず10年は様々な経験を積む必要があり、

それまでは自分の興味のある分野に集中することができません。

医学部1年生は、福祉施設へ行き1日体験するといった授業もありますが、

おそらく忘れてしまうでしょう。

私自身は、医学部以外の学部で講義をする際に、障がい当事者の方を招いてインタビューをしたこともあり、そうした授業では学生さん達から驚きの反応をいただいています。

そのような機会がないと、障がい者について伝えることはなかなか難しいです。

障がい当事者の教員がいれば、状況は変わるのかなと思います。

(小山内)私も43年間いろいろな教育現場で講義をしてきましたが、医学部に呼ばれたことはありません。

医師を教育することも、障がい者の大切な役割・仕事だと思います。

障がい者についての教科書を作り、医学部生の方々に学んでいただかないと、いつまでたっても障がい者が病院で困る思いをしてしまいます。

障がい者は、自分がどのように生活しているのかを伝えるために生きていて、それが障がい者にしかできない仕事だと、私はそう考えます。

これからも先生の講義に、いろいろな障がい当事者を呼んでください。

 


Q.医学の発展により、脳性まひ者には軽度化する人と重症のままの人が二極化していると聞きましたが、本当ですか?

A.二極化しているという明確なデータはありません。

ですが医学の発展により、小さく生まれたお子さんの死亡率は減っています

それと同時に、呼吸器や胃ろうなど医療的ケアが必要なお子さん(医療的ケア児)がこの10年で2倍に増えています

そうした背景から、医療的ケア児に関する法律が今年6月に可決されました。

都市部は医療的ケア児の支援が充実していますが、地方に行くと人材・資源不足が見られます。

 


Q.車椅子のシーティング(調整)をやるときのアドバイスはありますか?

A.チルト式車椅子という、90度の姿勢のまま後方へ倒せる車椅子があります。


チルト式車いす

この車椅子に座った時のように、耳の穴・肩・骨盤が同直線上にある姿勢が、身体にいい姿勢です。

肩の高さが左右で同じ、頭も動かしやすい、胸がしっかり開いていて呼吸がしやすい、

という点が大事です。

骨盤の中に体の重心が落ちていくような姿勢が理想的です。

ただ、側わんがあったり股関節の動きが悪かったりすると、こうした姿勢はとれないと思うので、1人1人個別に診る必要があります。

車椅子や座位保持クッションなどを作る際は、こうした点に注意していただきたいです。

 


最後に リハビリテーション科は、どうすれば生活しやすくなるか、どうすれば人生が過ごしやすくなるか、を考えるところです。

リハビリ科の医師は全国的にも少ないですが、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などリハビリに関わる人材は増えてきています。

そうした方達に困っていることを相談して、その方を通じて医師へ伝えることもできるかもしれません。

あきらめずに悩みや思いを伝えていただきたいです。



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いちご通信214号(2月号)を発行しました

当法人の会報誌「いちご通信」の214号(2022年2月号)を発行いたしました。 重度訪問介護サービスにおける「見守り」の時間が、行政から福祉サービスとして認められない問題についてなどを取り上げております。 試しに読んでみたい方はお気軽にお問い合わせください。

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