<いちご通信191号(2016年2号)より抜粋>
障がいサービスを受けて暮らしている人が65歳の誕生日を迎え、
介護保険移行をすすめられることで様々な問題が起こっています。
2015年11月22日(日)札幌市生涯学習センターちえりあで、
2名の講師を招き勉強会を行ないました。
当日は福祉関係者や障がい当事者、ご家族などが参加してくださり、
活発な意見交換が行われました。
相談支援事業所さにーさいど 森本俊二 講師
相談支援事業所さにーさいどでは、
高齢者と障がい者のどちらも相談を受けていますが、
私は障がい担当の支援員をしています。
今回のテーマの「65歳問題」ですが、
最近雑誌の特集などでもみるようになりましたが、
この問題は昔からありました。
ただ、今、障がい福祉サービスと介護保険制度の差が出てきたことで
問題になってきたのかなと感じます。
まず、65歳になると介護保険が受けられます。
そこで出てくるのがそれまで障がい福祉サービスを
受けていた方への介護保険優先原則です。
介護保険制度がスタートしたころ、
私は地方へ巡回相談をしていたのですが、
障がい福祉制度と介護保険制度の違いでまず感じたことは、車いすでした。
障がいサービスは個人に合った車いすを購入できますが、
介護保険はレンタルなので、
65歳を過ぎた人は座面の幅が余っているような
大きさの合わない物に乗っていました。
また、レンタルの車いすが足りなくなると、
他の地域を探して運んでこなければならず、
昔はとても厳しかったです。
ただし、リクライニング機能の車いすがないことや、
身体に合わないものを使うと障がいが重くなるということなどから、
65歳以降は介護保険が優先だが、
必要なものは障がいサービスを継続利用できると認められました。
また、障がいサービスから介護保険へ変わることによって、
大きく変わるのはサービスの利用者負担金です。
次の表にあるように、
現在は障がいサービスを受けているほとんどの方は利用料がかかっていませんが、
介護保険へ移行すると1か月で最大下記の金額がかかります。
また、区分は「世帯」の所得によって決まりますが、
この「世帯」の考え方も、
障がい福祉は「世帯=(たとえば親と住んでいても)本人と配偶者」、
介護保険は「世帯=同じ家に住み、生計をともにする人たち」(※18歳以上の場合)
と異なります。
サービス利用料の上限月額(2010年4月~)
区分 | 低所得1 | 低所得2 | 一般1 | 一般2 |
障がい福祉 | 0円 | 0円 | 9,300円 | 37,200円 |
介護保険 | 15,000円 | 24,600円 | 37,200円 | 37,200円 |
65歳問題に関する訴訟も複数起きています。
その一つが2012年、愛知県一宮市から
「65歳の誕生日から障がい福祉サービスを打ち切り、介護保険を利用するように」
という通知がきた舟橋一男さんが訴えを起こした「舟橋訴訟」です。
この訴えは却下され、サービスの支給量も減ってしまいましたが、
2年間の協議の末、障がいサービスである「重度訪問介護」の支給が
認められたというケースです。
もう一つは2013年、脳性まひの浅田達雄さんが岡山県岡山市を訴え、
現在も裁判が続いている「浅田訴訟」です。
浅田さんは電動車いすで一人暮らしをし、
障がい福祉サービスを自己負担なしで利用していましたが、
65歳から介護保険を利用するよう岡山市に求められ、
それを断ると利用していた障がいサービスを打ち切られました。
仕方がないので介護保険を利用しますが、
15,000円の自己負担が生じるようになるのは不当だとし、
処分の取り消しを求めています。
「介護保険優先」という考え方には、地域で驚くほど格差があり、
柔軟に対応する市町村もあれば、岡山市はもっともかたくなで
障がい者に厳しい対応をしたということが明らかになり、
65歳問題が広く知られるきっかけとなりました。
2015年厚生労働省からは、
介護保険優先が、介護保険しか使えないと誤解されないよう、
必要な人には介護保険と障がい福祉サービスをどちらも利用できると伝えること、
また、市町村間で対応にばらつきがないように、
利用意向を具体的に聞き、個々の実態に合った適切な判断をすること
と通知が出ています。
北海道ケアマネジメントサポートリンク
(居宅介護支援事業所さいどbyさいど)奥田龍人 講師
児童相談所、訓練センター、療育センターで障がい福祉に関わり、
医療法人手稲渓仁会病院で高齢者の問題に関わるようになりました。
介護保険のテーマは、これ以上の介護が必要にならないよう
ADL(生活に必要な動作)の向上を目指すことです。
障がい福祉のテーマはQOL(生活の質)を上げて
社会参加や自己決定をすることです。
たとえば、デパートが好きなおばあちゃんが
ヘルパーさんと一緒に行くのは、介護保険では認められません。
それはQOLの向上だからです。
買い物は家から近くのお店でしてくださいと言われます。
介護保険ではヘルパーができないことが多くあります。
たとえば、除雪、ペットの世話、窓ふき、電球の交換などは
保険外の自費でおこなっていただくことになります。
私がケアマネージャーをしていたとき、
ほこりをかぶった仏壇を掃除したいということで、
ヘルパーはできないので、私が掃除をしたこともありました。
それくらい介護保険は厳しいです。
介護保険制度と障がい福祉制度を統合しようという話はずっとあります。
しかし、自分で着替えられるようになるために30分かけて汗だくになるよりも、
ヘルパーさんの手を借りてその30分で社会参加をする。
障がい者運動の始まりはそこにあります。
高齢者のADLの向上のためには
「人の手をわずらわせない」というプライドに働きかけます。
しかし、障がい者の自己実現、自立のためには
「人の手を借りてもいい」という考え方です。
根本的な違いがあります。
こういうことから、障がいサービスを受けている人が
介護保険に組み込まれるとさまざまな問題が起こります。
ただし、介護保険の考え方が間違っているとは思いません。
これからどんどん増える高齢者に介護保険でQOLまで求めるのは難しいです。
現在国が出している公費は障がい福祉に1兆円。
介護保険には8兆円と、
みなさんが払っている介護保険料がさらに8兆円加わります。
比べると16倍くらいです。
障がい者福祉を充実させるためには、先天性や中途障がいの方と、
加齢が原因で障がいを持った方とを線引きしなければ、
財源の確保が困難になると思います。
札幌いちご会のように「寄付文化」を根付かせていくことも大切です。
これからの高齢社会、いかにお金をかけないかということで、
病院や施設ではなく、地域でみましょうというのが地域包括ケアです。
今後一層保険外のサービスが必要になってくるため、
ボランティアや町内会などの住民組織の力が重要になります。
また、65歳前から障がいサービスを受けている人には、
両方のサービスを自由に選択できるような仕組みにするべきです。
そのためには、相談支援員(障がいサービスのケアプランを作成する人)と
ケアマネージャー (介護保険のケアプランを作成する人)が連携し、
どちらにも相談ができる必要があります。
会場から
ご質問
DPIなどで障がい者運動をおこなっていますが、
札幌市では、重度訪問介護を利用しているような重度な障がい者以外は
なかなかサービスを併用できていないのが現状です。
どのように働きかけをしていくのが効果的でしょうか。
回答
相談支援事業所が、本人と一緒に
「この人はまだまだ社会参加できる。障がいの制度を使うべきだ」
というプランを持って市と話し合いし、きちんと説明することが大事です。
そういう積み重ねをした上で、政治的な動きも必要です。
請願や陳情を市議会に出したり、障がい当事者団体が要求したりしないと
市はなかなか動きません。
窓口で話し合うのと、議会で話し合うのでは結果が違うと思います。
ご質問
障がい者の方は制度利用をしても自己負担がない方がほとんどですが、
介護保険になると負担金が発生することが大きな不安の一つとなっています。
そのことについてどう思いますか。
回答
厚労省から通知も出ているので、
障がいサービスを使い続けられるよう主張をすることがまず大事です。
また、障がいの制度はすべて国庫負担に対し、
介護保険は半分が国民の保険料でまかなわれているので、
国はより多くの人に介護保険へ移行してほしいのです。
逆に、高齢者が障がいサービスを使いたいとなると、
障がいの制度は破たんしてしまい、本当に必要な人が受けられなくなります。
介護保険をきちんと提供することも大切なことです。
障がいサービスから介護保険になった方については、
減免制度ができるよう働きかけをしていくのが良いと思います。
ご意見
65歳になると国民健康保険か、後期高齢者医療保険、
どちらに加入するのか選ぶことになりますが、
札幌は後期高齢者医療保険に加入しないと
重度心身障害者受給者証をもらえません。
どちらに加入するかで負担も変わってくるので、
そういう65歳問題もあることを知ってほしいです。
ご意見
普段仕事で高齢者と障がい者のかたに関わって感じるのは、
情報がとにかく少ないということです。
こういう勉強会などで情報を得ている人は、
支援者と札幌市に交渉することもできますが、
何も知らない人は、たまたま良い担当者であれば良いけれど、
大体は言われたまま手続きをするだけです。
障がい者や高齢者の事業者と市と本人が連携して、
もっとこういう勉強会を設けるなどできれば良いと思います。
アンケート
●相談支援事業所のソーシャルアクション機能を高めてほしいと感じました。
●今まで考えてこなかった課題、将来について考えさせられました。
●たくさんの課題があると思います。
たとえば介護保険には移動支援がないので、
高齢者は社会参加する必要はないのかと感じます。
とても切実なテーマで、当事者が声をあげていかければいけないと思いました。
●普段障がい関係に携わっているので、今回介護保険のことがわかって勉強になりました。
●今回は障がい関係の参加者が目立っていたと思うので、
もっとケアマネージャーなど介護の関係者にも考えてもらいたい問題だと感じました。
理事長 小山内美智子 より
65歳問題の前に、サービスを利用できる時間数があるのに、
ヘルパーが足りなくて制度を使えない人もいます。
良いケアマネや区の担当者に出会って65歳問題をクリアした人もいますが、
声を上げると余計なことをしたと言われ、
せっかく勝ち取ったものも削られてしまうのではないか
という恐怖があると聞き悲しいです。
たとえば、
ヘルパーさんが仏壇を掃除してくれて
利用者さんに「誰にも言わないでね」と言います。
でも、それがばれると、せっかく良いことをしてくれたのに
そのヘルパーさんは担当を代えられて、もうその家に来なくなってしまいます。
誰もが心地良く生きて、心地良く死んでいけるためには何が必要か、
これからもこの勉強会を重ねて多くの人と語り合いたいと思います。
みなさんの地域でもこの勉強会を開催したいという希望がございましたら、
ぜひいちご会までご連絡ください。
Comments